クラウド移行とは?
クラウド移行の基礎や移行方法、移行の流れまで徹底解説

自社のサーバー環境などを構築する際、従来はセキュリティの観点からオンプレミスが選ばれるケースが多くありました。しかし、コスト削減や拡張性の確保、運用負荷軽減などの観点から近年ではクラウド環境を採用する方法が一般的です。また、セキュリティを高めたい場合、例えば、データベースサーバーのみを自社環境にするハイブリットクラウド形式も増えています。各クラウドベンダーから移行ツールが提供されており、オンプレミスからの移行難易度も格段に低くなりました。この記事では、経営企画や情シスの担当者向けに、クラウド移行の基礎や移行方法、移行の流れなどを解説します。

01クラウド移行とは

クラウド移行とは、自社のサーバー環境などをオンプレミスからクラウドに移行する作業です。2023年10月10日でWindows Server 2012 のサポートが終了することに伴い、多くの企業でインフラ環境の再構築が課題となっています。

現在オンプレミス環境で運用している企業は、サポート終了をきっかけに、オンプレミス環境の再構築やクラウド移行などの選択肢のなかから、自社に適した手段を選ぶ必要があります。例えば、以下のような課題を抱えている企業は、今回のサポート終了を機に、選択肢の1つとしてクラウド移行を検討してみることが有効です。

データ容量のひっ迫、サーバー運用管理の負担、ファイル利用の物理的な制約

クラウド移行には、主に下図に示す3パターンがあります。

【パターン1】オンプレミス→クラウド 【パターン2】クラウド→クラウド 【パターン3】ハイブリッドクラウド

多くの場合、クラウド移行ではパターン1のオンプレミスからクラウドへの移行となります。パターン2のクラウド間の移行は、パブリッククラウド間での移行、例えばAWSからMicrosoft Azureへの移行です。

パターン3のハイブリッドクラウド移行は、データベースなどリソースの一部をオンプレミス環境に残しつつ、他のリソースをクラウド環境へ移行する方法です。ハイブリッドクラウドの例としては、Azure Stack HCIが挙げられます。

また、代表的なクラウド環境にはMicrosoft AzureGoogle CloudIBM Cloudなどがあります。それぞれの詳細については、以下のページをご覧ください。

02クラウド移行によって実現できること

前述のとおり、オンプレミス環境での運用では、サーバー運用管理の負担やデータ容量のひっ迫などの課題が残ります。しかし、これらの課題はクラウド移行によって解消することが可能です。

本章では、クラウド移行によって実現できることとして、主に以下の4点を解説します。

1. 保守運用、障害対応の負担軽減

クラウド移行によって保守運用や障害対応の負担軽減を図ることができます。オンプレミス環境とは異なり、クラウド環境では基本的にベンダー側で保守運用や障害対応を行います。そのため、自社の情報システム部門メンバーやシステム運用担当者などの要員の負担軽減が可能です。

2. 拡張性の確保

次に、拡張性の確保もクラウド移行によって実現できる利点です。オンプレミス環境の場合、サーバーのリソース増強などを行う際は、新たなサーバー機器の調達などから実施しなければなりません。

しかし、クラウド環境であれば、サーバーの使用量に合わせたオートスケーリングなどが可能であるため、十分な拡張性を確保した状態を保つことができます。

3. アジリティ性の向上

クラウド移行を実施することで、アジリティ性の向上も実現できます。クラウド環境の場合、必要なサービスやインフラ環境を短期間で契約・利用することが可能です。そのため、サービスやインフラ環境を途中で変更したい際でも、オンプレミス環境よりも柔軟かつ迅速に変更できます。このようなアジリティ性の高さから、ビジネス環境の急激な変化にも対応しやすくなります。

4. セキュリティ性の向上

セキュリティ性においても、クラウド移行によって向上が期待できます。クラウドの場合でも、Microsoft Azureのように代表的なクラウド環境であれば、セキュリティ対策への多大な投資が行われています。そのため、オンプレミスと同等以上のセキュリティ環境が整備されているといえるでしょう。

自社のオンプレミス環境に十分なセキュリティ投資ができていない企業の場合は、Microsoft Azureなどのクラウド環境に移行したほうが堅牢なセキュリティ環境を享受できる場合もあります。

03知っておくべきクラウド移行の課題

クラウド移行には多くのメリットがある一方で、クラウド移行を実施する際には課題も存在します。主に以下の課題やタスクが発生する点を考慮しておきましょう。

1. クラウドにおけるサイジング調整が必要

クラウド移行によってシステムを再構築する際は、移行後のシステムに必要なリソースを事前に見積もり、サイジング調整していく必要があります。

従来のオンプレミス環境では、柔軟なリソース変更が難しかったことから、必要なリソースにさらに余裕を持たせた過大なサイジングが行われる傾向にありました。それに比べればクラウドは柔軟にリソース変更ができますが、クラウドにおいても事前のサイジング調整は必要です。

また、クラウドの場合は柔軟にサイジング調整ができる分、試行錯誤を繰り返しながら最適なサイジングを探っていくことも大事なポイントとなります。

2. 移行中のダウンタイム

クラウドへの移行中はシステムを利用できないため、ダウンタイムが発生します。加えて、移行に数日以上かかるケースもあり、移行するシステムが基幹系などの場合は業務インパクトが大きくなります。

そのため、システムの規模によっては、企業全体で移行計画を立てて合意することが必要です。

3. セキュリティ/コンプライアンス

クラウドでは各種セキュリティソリューションが提供されていますが、ソリューションだけでは十分なセキュリティ対策を実施できません。自社のニーズに合うセキュリティ対策を検討し、必要な設定を行うことが求められます。

また、クラウド利用にあたっては、適切に利用するための社内コンプライアンスの策定も重要です。

4. カスタマイズ制限の発生

クラウド環境では、オンプレミス環境のような自由なカスタマイズを実現しにくい点も課題です。クラウドサービスの場合、提供されているサービス・機能の範囲内でしかカスタマイズができない制限があります。

例えば、自社特有の商習慣や会計ルールなどがある場合、会計システムなどの自社の基幹システムをクラウド環境上では完全に再現できないケースが考えられます。

04クラウド移行の手法

ここでは、クラウド移行の主な手法として、以下の3パターンを解説します。

【パターン1】リフト アンド シフト 【パターン2】リプラットフォーム 【パターン3】リファクタリング

1. リフト アンド シフト

リフト アンド シフトは、オンプレミス環境をそのままクラウド環境に乗せ換えたうえで、クラウドネイティブにシフトする手法です。クラウド移行の王道ともいえます。

まずは「リフト」として、オンプレミス環境で運用している既存システムをそのままクラウド上に移行します。そのうえで「シフト」として、クラウドへ移行したシステムをクラウド環境に合わせて改修・最適化していく流れになります。

例えば、以下のようなニーズがある場合に適しています。

  • 移行にかかる時間を減らし、まずはクラウドに移行するメリットを享受したい
  • システム変更のリスクを最小限に抑えてクラウドに移行したい など

リフト アンド シフトでは、クラウド環境でもオンプレミス環境の時と同様のアーキテクチャを利用できるため、移行の労力や難易度が下がる点が大きなメリットです。

2. リプラットフォーム

リプラットフォームは、既存システムの一部のコンポーネントなどを事前に変更し、クラウドのメリットをより享受できるよう部分的に最適化してからクラウド移行を行う手法です。

クラウド移行前にアプリケーションのコンポーネントなどを変更・アップグレードすることで、クラウド環境上での効率的な機能の実現やスケーラビリティの向上などにつながります。

例えば、オンプレミスのOracleデータベースをOracle Database Service for Azureに変更するなどの部分的な変更・最適化が考えられます。

リプラットフォームでは、リフト アンド シフトと同様、クラウド移行時の手間やコストを抑えられる点がメリットです。また、リプラットフォームを行っても外部から見た際の挙動は変わらないため、スムーズな運用継続が期待できます。

3. リファクタリング

リファクタリングは、クラウドの機能やサービスを最大限に活用するために、アプリケーションやOS、データベースなどを再構築してクラウド移行する手法です。

リファクタリングでは、ユーザーエクスペリエンスへの影響を最小限に留めつつ、アプリケーションの構造やコードを大きく変更する場合などが考えられます。

既存システムが老朽化している場合など、機能性やパフォーマンスの面で大きな変更が必要なケースでは、リファクタリングを行うことでクラウド移行後のパフォーマンスが大きく向上するでしょう。

リファクタリングは、リフト アンド シフトやリプラットフォームと比べると移行の手間や難易度は上がります。その代わり、リファクタリングによって低コストな運用や高速なデプロイといったクラウドネイティブな機能を大きく享受できるため、長期的な視点で考えれば費用対効果が高くなる可能性もあります。

例えば、リファクタリングとしてアーキテクチャのマイクロサービス化やコンテナ化などの変更を行うケースが挙げられます。

05クラウド移行の主な流れ

本章では、クラウド移行に役立つ移行ツールおよびクラウドの構築・移行における業者への相談、クラウド移行の主な流れを解説します。

移行ツールの活用

クラウド移行を実施する際は、クラウドサービス各社が提供する移行ツールの活用が効果的です。移行ツールを使うことで、オンプレミスからの移行難易度を大幅に下げ、スムーズなクラウド移行を実現できます。

次に、クラウド移行に役立つ代表的な移行ツールを紹介します。

Azure Migrate

Azure Migrateは、Microsoft Azureが提供するクラウド移行サービスです。オンプレミスの仮想マシンや物理サーバーをMicrosoft Azureに移行できます。

Google Cloud Migrate

Google Cloud Migrateは、Google Cloudが提供するIaaS型の移行ツールです。オンプレミスの仮想マシンや物理サーバーをGoogle Cloudに移行できます。

クラウド構築や移行支援を行っている業者への相談

自社でクラウド構築・移行を実施するための体制やスキルが整っている企業に関しては、前述した移行ツールを活用することで、スムーズなクラウド移行が可能です。

しかし、なかには移行ツールを使ったとしても、自社でのクラウド移行対応が難しい企業もあるでしょう。その場合は、クラウド移行の支援に熟練したパートナーに相談するという選択も有効です。

クラウド移行の流れ

クラウド移行の主な流れは以下のとおりです。

【STEP1】全体設計 【STEP2】ネットワーク構築 【STEP3】インスタンス構築 【STEP4】ミドルウェアインストール 【STEP5】データ移行 【STEP6】テストと評価

まずは全体設計として、ネットワーク設計やインスタンス設計を行います。Windows Server 2012など古いサーバーからの移行の際は、移行前と同じアプリケーションやミドルウェアの環境をクラウド側で提供できないケースがあります。その場合、新しいバージョン環境を用意することになるため、アプリケーションやミドルウェアの動作要件の確認が重要です。

全体設計の後は、設計内容を基にネットワーク構築やインスタンス構築を行うとともに、必要な場合はミドルウェアのインストールも実施します。

上記の構築ができたら、移行ツールなどを活用しながらオンプレミスからクラウドへ必要な各種データを移行します。移行後は、全体設計通りに環境構築できているかのテスト・評価を行いましょう。

なお、クラウド移行をスムーズに進めるポイントは、便利な移行ツールも備えたパブリッククラウド(PaaS、laaS)の選定です。

代表的なパブリッククラウドには、Microsoft AzureGoogle CloudIBM Cloudがあります。それぞれの詳細については、以下のページをご覧ください。

06まとめ

これまではオンプレミス環境での自社サーバー運用が主流でしたが、近年ではクラウドサービスの発展・普及に伴い、クラウド環境を採用する企業が増えています。クラウド移行を実施することで、自社の保守運用・障害対応の負担軽減や、拡張性・アジリティ性の高いインフラ環境を実現できます。

クラウド移行にはコスト面や移行中のダウンタイムなどの課題もありますが、課題も考慮して事前に計画を立てることで、クラウド移行のメリットを多く享受できるでしょう。

Microsoft AzureGoogle CloudIBM Cloudなどの各クラウドベンダーから便利な移行ツールも提供されているため、従来よりもスムーズにクラウド移行を実現できます。

また、クラウド移行自体を専門家にお願いしたい企業も少なくないでしょう。TD SYNNEXでは、お客様の環境やご要望にあわせて、パブリッククラウドの選定から構築、移行までを一貫してご支援しています。クラウドに関するご相談は、TD SYNNEXまでお気軽にお寄せください。

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